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ドリームインキュベータ・堀紘一代表取締役社長
editorCALLING!2006年04月29日 6:33 PM
2006年3月某日、株式会社ドリームインキュベータ社内にて行われた、同社堀紘一代表取締役社長と株式会社ワイズノット嵐保憲代表取締役社長の対談を、ダイジェストで振り返るWeb限定企画。
特筆すべきは堀社長の博覧強記である。その圧倒的な語彙、知識、表現力によって繰り出される至言格言は、まさに珠玉というほかはなかろう。このページで は、対談中に堀社長によって語られたエピソードのうちの数編を取り出し、適当な見出しを付けて掲載したものである。ちなみに、対談後の延長1時間で闘わさ れた討論会「現代オタク概論~萌えとは何か~」については稿を改めることにした。なんとも編集者冥利(編集者泣かせ?)のボリューム満点の企画であった。 ご協力をいただきました堀社長をはじめとするドリームインキュベータのスタッフの皆さまには、この場をお借りして御礼を申し上げます。
「欧米での<専門職>」
堀:日本とは異なって、ヨーロッパでは専門職が大変重要視されています。例えば、パリのカフェでテーブルをあずかるギャルソンには40年く らいのキャリアがある人がざらにいます。お客さんの顔から名前、好みなどを全部覚えているんですね。こうした優秀なギャルソンが退職する際には、確実に チップが取れるまでに培った“テーブル”の権利に、高額の値を付けて売却することができるのです。そして、その買い手に対しても銀行がお金を担保したりす る。欧米では、専門性・専門職を大事にする文化がそれほどまでに根付いているのです。
逆に、誰でもできること、すぐにできることは専門性とはいいません。板前でも1,2年くらいの駆け出しだったら見かけがきれいなだけの盛り付けぐら いはできるかもしれません。ですが、きちんとした人に付いて、おいしいものを食べて、修行を積んで、という歳月の積み重ねが必要です。本当においしいもの が作れるようになるには、10年から20年はかかるでしょう。日本的にいうと「匠の技」ですね。
「周囲の目」
堀:経営者ともなると、周囲の者と意見が食い違うこともでてくるでしょう。周りが見当違いをしていることもあれば、実際にリスクが存在する ケースもあります。大切なことは、そうした要因をきちんとマネジメントできるか、あるいはコントロールできるかなのです。究極的には「見極め」の能力とい うことになりますね。
また、どうしたら株主や顧客を納得させるか、とよく聞かれることがあります。ですが、僕は逆に「結果を見れば分かるでしょう」と言うにとどめ、また そう言えるように頑張ることが大事なんだ、という立場です。株価もいい会社経営をすれば、ちゃんと上がるものなんです。肝心なことは、良い会社をつくっ て、成長軌道に乗せること。人の理解と株価はあくまで二次的なもので、「いい会社」にそれらは付いてくるものです。株主や顧客への「説明」という作業に、 あまり気を取られてはいけないと思います。
(編)随所に魅力的なたとえが引用されるのが、堀社長のお話の一つの特徴。知識と比喩のコンビネーションの妙が、経営や政 治、ビジネスの固い話を純粋に「面白い」内容にしている。口述が読み物として十分に成立する背景には、堀社長の、長きにわたってコンサルティングをされて きた確かな経験と、多数の著作の執筆者としての実績がうかがえる。
「視座、視点、時間軸」
「視座、視点、時間軸」
堀:コンサルティングをしていて感じることは、大企業もベンチャーも供給者の論理から脱しきれていないことです。売れる方法のみを考え、ユーザーの気持ちをくんでいません。使う側の立場としての視座から論理を組み立て変えないとこれからは難しいと思います。
たとえば、富士山をここから見た景色と、5合目から頂上を仰いだ景色。どちらも富士山の景色であり、これはまごうことない事実です。ただ、このように見る角度としての視点が違うだけで、事実は一つであるにもかかわらずまったく違って見えます。
もう一つ、例を挙げましょう。少し前に、タクラマカン砂漠を取り上げたドキュメンタリー番組を見たんですが、砂漠の流砂によって何世紀も前の遺跡が 出てくることがあるそうですね。そして、今ある建造物が逆に砂に埋もれてしまうことも。数百年の時をかけて風景が変わる。なんとも雄大な話ですが、このよ うに時間軸が変わるだけでも物事はぜんぜん違って見えます。視座(見る立場)や視点(見る角度)によっても、見え方が180度異なることは申し上げまし た。
忘れてはいけないこと、重要なことは事実・本質に変わりはないということです。
さまざまな立場・角度・時間軸から物事を考えること。簡単なように見えて、大変難しいことです。特に相手の立場でものが考えられないのは、男女間の恋愛感 情にしてもそうですね。人間は逆に考えるのが苦手ですし、さらに難しいのはエンドユーザーもまた人間だということです。人間に二人として同じ人はいません から。
こうした供給者と需要者のギャップを埋める、つまりサプライと受け手の橋渡しをするのが、僕らの仕事だと考えています。
(編)ものごとの見方についての深い洞察である。「視点を変えよ」との忠言をされた方はこれまでにもいらしたが、“見方” についてこれほどまでに分析をされた方は、堀社長が初めて。また、「富士山」「タクラマカン砂漠」「恋愛」というたとえは、とても同じ話題についての比喩 とは思えない自由さと、不思議なユーモアを含んでいる。
「短期と長期」
堀:皆さんよく「短期スパン」という言葉を口にされますが、私はあまり信用しません。どんな事業も3?5年はかかるものです。たとえば、 ノートPCや携帯電話などは、私に言わせればほとんど機能が変わってないですね。雑誌やテレビもそう。チャンネル数は多いけど、くだらないものばかり。つ まり、皆さんが思うほど世間のスピードは上がっていないのです。気がせくのは分かりますが、本質的には時間がかかることばかりなんです。3分ではビーフシ チューもすき焼きも作れません。作ろうとしたらそれは作れますよ。でもこれでは全くおいしくない。料理にたとえましたが、本当の成功は時間をかけなくては できないものです。
「時間を味方にする」
堀:ネットビジネスの大手企業は、ほとんどが金融を扱うようなりました。かつてはIT専門職だと思われていた企業がなぜこうした方向に動く のか。もちろん勝算もあったとは思いますが、何よりも寡頭競争への焦りがあったからだと考えます。企業体を大きくするための手っ取り早い方法は金融なんで すね。でも、こうした動きは時間を敵に回しているように思えてなりません。焦ること、慌てることは、そこに大きなリスクを伴うことを忘れてはいけません。
一方、焦らず、慌てず、あきらめない人。時間はこのような人に味方します。若い人は時間があるのですから、雄大に構えるべきです。こそこそやっては 駄目。上場もそうです。資金調達、知名度アップ、リクルート、いろいろ目的はあるでしょう。でも大した力もないのに上場してしまうと、株に出来高がつか ず、流動しなくなります。株も会社も寝たきりになってしまいます。今の上場企業の六分の五はそのような感じですね。若い人やベンチャーほど、じっくり腰を すえてやるべきです。
「地球の営み」
堀:ITが社会に浸透したからといって、地球の営みが早くなったという人が多いのは気になります。目先で惑わされると、大きいことができな いと思います。本物は時間がたてば皆が認めてくれるものです。確かに、企業活動の合間にはつらい瞬間もあるでしょう。そして会社の本領というのは、こうし た場合にどこまで踏ん張れるかで決まるんですね。ビジネスには良い時も悪いときもあります。風雪に耐えないと本物はできません。逆に言うと、死にぞこなっ た会社は強いですね。これは大事な経験ですから。どう死にぞこなったかにもよりますがね。
「ITの未来」
堀:IT産業はある意味、踊り場を迎えているように思えます。インテルやマイクロソフトの独占体制が続いたため、開発はすれど競争力がな い。ですが、彼らがさらに停滞して進化が止まるときに、目を見張るような飛躍が何かしら生まれると考えます。変化があるところにチャンスは生まれるもので すから。そう考えると、多様な価値観が共存する文化がいかに重要か分かります。社内でどれだけさまざまな価値観を入れるか。こうした多様化を受け入れるこ とができる“寛容の心”も大切ですね。
(編)本対談の主題はまさに“長い時間軸”。じっくり物事に取り組むことの大事さについての堀社長のお話に、若者やベンチャー起業家の多くが勇気づけられることだろう。
“長い時間軸”と変化の芽をはぐくむ“寛容の心”。この2つのキーワードはそれぞれに補完し合う関係のように思える。価値の多様化の時代とされる21世紀を生き抜くヒントそのものではないだろうか。
「フリーペーパーの未来」
堀:フリーペーパーは、フランスではモンド紙よりも力があるといわれていますね。アメリカでも新聞はもともとローカルな存在でした。町ごと や市ごとの新聞といった形ですね。ところが、日本は全国紙が大変強い力を持っています。ユーザーは新しいもの、ひと味違うものに飛びつく傾向がありますか ら、NEXTWISEのようなフリーペーパーは今後も期待感が持てますね。
(編)最後に、フリーペーパー「NEXTWISE」への応援メッセージをいただきました。これからも、ITの今を伝える手軽なビジネスパートーナーを目指して、編集部一同頑張ってまいります!
堀紘一(ほり・こういち)
東京大学法学部卒業、ハーバード大学経営学修士(MBA with High Distinction)、読売新聞社、三菱商事、ボストンコンサルティンググループ(BCG)社長を経て、2000年にベンチャー企業の支援・コンサル ティングを行うドリームインキュベータを創業。同社を2005年9月、東証1部に上場させる。
株式会社ドリームインキュベータ http://www.dreamincubator.co.jp/
