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金沢大学総合メディア基盤センター 大野浩之

editor特別インタビュー2006年10月11日 11:09 AM

Microsoft(以下MS)がWindowsのバージョン1.0を発売してから今年で20年となる。“PCの標準OS”として君臨してきた Windowsだが、ベンダーロックの代名詞として指摘され続けているのも実情だ。

金沢大学総合メディア基盤センターの大野浩之教授に、MS依存の問題点とオープンソース・ソフトウェア(以下OSS)の可能性について話を聞いた。
 

国立大�法人 金沢大� 総合メディア基盤センター 教授 大野浩之大野浩之(おおの ひろゆき)
国立大学法人 金沢大学 総合メディア基盤センター 教授
1989年東京工業大学院理工学研究科制御工学専攻博士後期課程満期退学、89年同大学理学部情報科学科助手、94年同大学院情報理工学研究科講師、99 年郵政省通信総合研究所〈現(独)情報通信研究機構〉非常時通信研究室長、00年内閣官房併任、02年内閣官房情報セキュリティ対策推進室緊急対応支援 チーム(NIRT)総括・指導担当、06年併任解除、国立大学法人金沢大学総合メディア基盤センター教授。博士(理学) 東京工業大学 1993。1985年ころから、日本のインターネットの普及と啓発、さまざまな情報通信システムの研究開発に係わってきた。昨今では、情報通信システムに 潜む危機について研究しつつ、最新の情報通信システムを活用した新たな危機管理手法の研究に従事している。


大野先生の研究分野についてご紹介ください。
通常、学問的なIT研究の場では、あらゆるインフラが100%機能していると仮定した時にどのようなことが可能になるのか、といったことをテーマにします。ですが私はインターネットに何か問題がある場合にはどうすればいいのか、という部分を研究しています。
特に焦点を当てているのは危機管理の道具としてのインターネットの利用可能性(ネットで危機管理)と、インターネット自体の危機管理(ネットの危機管理)です。
後者に関して補足しますが、インターネットには高い独立性という特徴が備わっています。例えば、電話などのインフラは総務省が行政指導をする立場にありま すが、ネットの世界は特定の企業や行政機関がすべてを握っているわけではありません。そのため、大規模障害が発生した際の対処、つまり『ネットの危機管 理』は一つの大きな論点になります。


日本における『ネットの危機管理』には、特にどのような問題点があるのでしょうか?
まず、現状のMS製品に見られるようなオープンになっていない排他的システムだけで本当の良いのか、という点を考えなくてはなりません。
家庭などでのプライベート利用はさておくとしても、企業や公的機関で特定のアプリケーションやOSでしか作業ができない状態は好ましくありません。しか も、それらが日本企業ではなく外国企業の製品で占められている。ITインフラの基幹を自国でまかなえないことは憂慮すべきことで、極端な話ですが、MSあ るいは米国が情報制裁として、Windows日本版のパッチを機能させなくしたり、虚偽のアップデート情報を流すことでOS自体を動かないように細工する ことも理論的には可能なのです。そして、この時に他のシステムに乗り換えられないのが今の日本の姿なのです。
確かに、LinuxやMac OSといったオルタナティブは存在しますが、世の中の99%の人は自力での乗り換えができません。こうした“危機管理”は、大げさな言い方をすれば、空が 落ちてくることを心配する分野であり、実際問題としてMSがそうした動きに出ることはほぼないと考えられます。ですが、可能性としてありえるという事実を 気に掛けている人が常にいなくてはなりません。それ自体が、敵対的アップデートの効果を減らし、発生する率を下げることにもつながるからです。


そうした現状を打開するためのソリューションとは、いったいどのようなものでしょうか?
MSにとって替わるオルタナティブをつくることであり、その鍵を握るのがOSSです。ソフトウェアの無償ダウンロード、ライセンス費無料といったコスト面でのメリットは、OSSであればこその強みと言えるでしょう。
一方、MS製品が基幹となっている企業・団体では、MSに支払う金額がどうしても固定費となり、予算を圧迫することになりかねません。少子高齢化の影響を 受ける大学などの教育機関にとっては特に深刻ですが、OSSを利用することでこの部分は理論上ゼロにすることができます。
逆にOSSのネックとなっているのはセキュリティ責任の所在です。保険や品質管理の制度が進んだ現代は、もはや“補償”という考え方を抜きに語ることはで きません。いざという時にはお金で解決してもらえる担保があり、保険費用との天秤を見た上で、自社サービスを維持できるだけのラインを確保したい、と誰し もが考えます。
ですが、OSSにはそれがありません。どこからの補償もなく、ラインは自分で死守しなくてはならない。OSSへと一気呵成に転換しないポイントはこうした点なのです。
私自身、OSSの良い点ばかりを強調する時代は終わったと考えています。しかし、だからといって特定の企業にITインフラを託すことは危険です。MSを飲 み込むような超巨大会社が出現して寡占の状態が崩れるのを待つか、あるいは、長短ある“OSSの形”という思想を皆が共有して前へ進むかのどちらかでしょ う。


大野先生の研究室、あるいは先生ご自身の今後の目標や指針についてお聞かせください。
まず私の研究室からは多面的な知恵を持った人材を輩出していきたいと考えています。単なるプログラマーやエンジニアではなく、ネットワークの良い面・悪い 面が理解でき、何ができて何ができないのかをきちんと語れる人材。より具体的に言えば、OSの中身を熟知し、必要なアプリケーションと安全で確実なサーバ システムを自力で構築でき、一方でちょっとしたルート権限※を奪えるくらいのプログラムまで書けるような、表も裏も分かった人材です。
今後、PCはシンクライアント化が進み、社会全体のユビキタス化が加速していくことが予想されます。今はその流れをつくりだせるタイミングであり、同時に 大きなチャンスであると考えています。こうしたキーワードでピンとくる企業とコラボレートしつつ、新しい環境やインフラを築く研究を続けたいと考えていま す。

※ルート権限
UNIX系OSの管理者アカウントを意味する。アクセス権の設定にかかわらず、すべてのファイルに無制限にアクセスすることが可能。漏えいしたルート権限のパスワードが悪用されれば、事実上そのコンピュータは乗っ取られた状態に陥る。